冬季のX Gamesやオリンピックでの金メダル獲得など数々の輝かしい功績を残し、世界最高のスノーボーダーの一人として第一線で活躍し続けている平野歩夢。東京オリンピックではスケートボード・パーク種目でも日本代表として出場を果たすなど二刀流のアスリートとしても注目が集まった。

そんな前人未踏の快挙を次々と成し遂げながら、常に我々を驚かすような新たな形でさらなる高みを目指す平野がそのパフォーマンスを発揮するために身に纏っているのは、彼のパートナーで日本が世界に誇るアパレルブランド「ユニクロ」のウェアだ。その中でもスノーボード競技で使われるゲームウェアは平野が契約開始当初からプロデュースに関わっていることでよく知られている。

そして彼の数々の快挙と世界最高難度トリックの習得の裏側には、その最高のパフォーマンスを引き出すために開発されたゲームウェアの存在があった。今回はこのゲームウェア開発を切り口に、平野とユニクロが今まで共に歩んできた軌跡やこれから両者が目指す「世界一」の意味について迫った。

世界最高のスノーボーダーの一人と称される平野歩夢と、世界のアパレル業界を牽引するユニクロが共鳴したある想いとは

平野歩夢、契約当初の写真

平野とユニクロがグローバルブランドアンバサダー契約を締結したのは、時を遡ること2018年の11月。両者がお互いをパートナーとして選んだ理由には共鳴したある想いがあった。

当時は東京オリンピック2020にてスケートボード競技の正式種目採用が決まったことから、平野が「スケートボードとスノーボードの二刀流をやります」と公言。スケートボード・パーク種目でのメダル獲得を目指すという前人未踏の目標を掲げた中でユニクロと出会った。

ユニクロは今までテニスやゴルフといったスポーツを主にサポートしていた中で、スノーボードとスケートボードの両方でオリンピックに挑戦するという今まで誰も成し得たことがない新しい領域に挑む平野に共鳴。それはオリンピックで金メダルを目指す平野とアパレル業界で世界一を目指しているユニクロの両者が持つ共通項でもあった。

当時、平野はまだ19歳でユニクログローバルブランドアンバサダーの中では最年少であったものの、新しいことへのチャレンジ精神やマインドセットを兼ね備える人間性を持っていたことがパートナーとして歩む決め手の一つだったとユニクロ担当者は語った。

そんな中で契約後、平野とユニクロが一緒に取り掛かったのが、平野自身が思うような理想のゲームウェアの開発だった。平野本人からの要望もあり、ユニクロは彼のパフォーマンス向上に繋がる機能やフィードバックを全て抽出してウェアに落とし込んだ。そしてその中で一番のポイントとなったのは「1ミリでも高く飛べる、最も軽いゲームウェア」の実現。

ユニクロは平野と何度もミーティングを繰り返し、ミリ単位でサンプルを改良しながらゲームウェアを作成。それが一般向けに限定発売されたことでも話題になった「ハイブリッドダウンスノーボードパーカ」だ。実際に競技でも使用したことから、X GamesやDew Tourでの数々の好成績への貢献はもちろんのこと、彼が世界一であることを証明した超高難度トリック「フロントサイドトリプルコーク1440」の習得をサポートしたウェアであることは間違いない。

そして今回、その初代デザインから更にブラッシュアップされた平野歩夢の新ゲームウェアが「X Games Aspen 2024」でお披露目となった。

さらなる高みを目指すために、平野が直接プロデュースに携わったこだわりの詰まる渾身のゲームウェア

新ゲームウェアはシェルジャケット

平野の「1ミリでも高く飛ぶために、よりウェアを軽くしたい」という要望から新たにプロデュースされ、今回の「X Games Aspen 2024」にて初披露となった新ゲームウェア。2022年の夏からデザイン制作をスタートし、1年以上かけて開発したもので、前回のハイブリッドダウンスノーボードパーカからデザインも機能もガラッと変更されている。

旧デザインと大きく異なるのはダウンジャケットからシェルジャケットへ変わったことだ。両者の話し合いの中で平野は防寒性よりも自分の動きと軽さにフォーカスしたいということで、ダウンジャケット以外のオプションを模索したところ、本人から「シェルでも問題ないです」と意見を得たことで実現した。

ここでは、そんな今回のシェルジャケットのデザインで平野がこだわっているポイントを紹介する。

まずはウェアのデザイン方法だ。普通の洋服は基本的に生地を2枚使って切り返しているため肩の部分にラインがあることが多いが、本デザインは防水・防風加工がされた1枚の生地で切り替えがないように仕上げており、腕が上がりやすくなっている。

フード

次はフードの形状だ。雪や風を避けやすくするためにツバの長さや角度は特にこだわっており、何度もサンプルを改良しヘルメットの着脱時を含めどんな状況にも対応できるような形状に仕上げ、かつアジャスターを搭載することでフィット感をさらに向上させるようにデザインされている。

フードに搭載されたアジャスター

またフィット感という意味では裾を抑えるために搭載しているドローイングもその一つだ。ファッションとしてもオーバーサイズで着ることを好む平野だが、そんな彼が競技中にライディングしやすく、かつ飛んだ時のシルエットが綺麗に見えるように裾が絞れる仕様になっている。さらにその絞ったドローイングが邪魔にならないようウェアの内側に留め具がついており、ドローイングをコンパクトに収納することも可能である。

収納可能なドローイング

そして平野にとって練習から本番まで必要不可欠な音楽を聴くためのイヤホンを通せる穴が内ポケットについている。また他の細かなこだわりとしてはベンチレーション(風通し)やシステムファスナー、持ちやすい形状のジッパープーラーなどがあり、平野が欲しい機能を全て網羅したウェアとなっている。

イヤホンが通せる穴を内ポケットに搭載システムファスナー

なお今回、この新ゲームウェアのお披露目に際して「ユニクログローバルブランドアンバサダー」のSNSアカウントにて2名様に「平野歩夢選手直筆サイン入りX Games Aspen 2024着用ゲームウェア」が当たるプレゼントキャンペーンを実施中とのことだ。気になる方は是非公式SNSアカウント「インスタグラム・X(旧Twitter)」をチェックしてみて欲しい。

自身のシグネチャーゲームウェアが導いた、世界最高峰の戦いで差をつけるパフォーマンスの向上

©Kosuke Shinozaki

なお平野の「1ミリでも高く飛ぶためにもっとウェアを軽くしたい」という思いから生まれた新ゲームウェア着用して挑んだ今大会では、平野自身が持つ世界最高難度のトリック「フロントサイドトリプルコーク1440」を含む、北京オリンピック2022で金メダルを獲得したルーティンをブラッシュアップしてトライ。

しかし、今回のハーフハイプは他のコースに比べるとサイズが小さいことから、他のトリックよりも滞空時間が必要となる「フロントサイドトリプルコーク1440」はいつも以上に難易度が上がるものであった。2本目では見事同トリックをメイクするも、その後の「キャブダブルコーク1440」の着地時にミスがあり失速。惜しくもルーティンを決め切ることはできず8位で大会を終えた。

大会後、平野は新ゲームウェア着用により自身にどんな変化があったのかを含めて、今の思いを率直に話してくれた。

– X Games Aspen 2024の感想を聞かせてください。

「各大会ごとにハーフパイプの大きさや長さ、形状の全てが変わってくる中で、自分ができることの完成度を上げている最中なので、どんなサイズのハーフパイプでも自分ができるMAXのランを出すことが今シーズンの目標でした。

結果として、ラン3本の中で自分が今まで準備してきたことを決められなかったのは悔しいですが、この難しい条件下でのチャレンジという点では、相手というよりも自分自身に対してMAXで向き合えたと思っているので後悔はないです。結果を残せなかった悔しさと今回チャレンジして得た経験を次に繋げていきたいと思っています。」

– 新ゲームウェアの着心地はいかがでしょうか?

「以前のモデルよりもさらに軽いウェアを求めて、長い時間をかけて開発してきた一着を初めて着用するタイミングでした。ようやく今回このX Gamesという大会の特別な雰囲気の中、新ゲームウェアを着用できたことで自分のモチベーションがグッと上がりましたし、このウェアはまるで着ている感覚がないくらい軽いので、これ以上の動きやすさはないんじゃないかとライディング中に感じるほどでした。

また自分好みのサイズ感に合わせてもらったこともあり、もし肌寒いなと感じてもファーストレイヤーを重ね着した上から羽織れるような薄さと形状を兼ね備えたシェルジャケットになっています。そして2色のカラーで切り替えたデザインは自分がこだわった点で、1色だと他のライダーと被ってしまいがちなので、2色をチョイスした上でシンプルさを基調に色も派手ではなくクラシックにまとめています。

この新ゲームウェアは自分が本当に満足できるシルエットとデザインになっていて、今まで着てきたゲームウェアの中で一番ですね。」

– 今大会を経て今後の目標を聞かせてください。

「目標はオリンピックでの2連覇なので、2年後のオリンピックへピークを持っていけるように日々を過ごしていて、そのために時間をかけて取り組んでいることも多いです。またその過程の中では特にチャレンジ精神を大事にしています。普段から挑戦しては失敗の繰り返しですが、このチャレンジ精神があるからこそ、その経験が自分にとってプラスになっています。こういう風に前回のオリンピックを終えてから、常に先のことを頭の片隅に置きながら生活や練習を重ねて来れているので今の自分がいるんだと感じています。

また、最近スノーボード界ではライダーの技術レベルの向上やトリックの進化のスピードが早くなっていることから、その分リスクも今までとは違う次元になってくる中で迎えるのが次のオリンピックなのかなと予測しています。

だからすごく身体を大事にしていく必要がある一方で、そのギリギリの戦いがさらに進行している状態なので、スノーボードだけじゃなくて生活スタイルだったり、その時自分に足りないものを補い続けることの重要性も強く感じています。もちろん練習が一番大切ですが、他の足りないものを補うことにも集中しながら自分を強くしていきたいと思っています。」

これらの言葉から平野が見据えている頂点がいかに高いところにあるのかが垣間見られた。今後この新ゲームウェアと共に数々の大会で世界一になることはもちろんのこと、まだ他のスノーボーダーたちが踏み入れていない新たな領域へ達するために、これからも自分自身との戦いを重ねながら進化し続け、自身の掲げた目標を一つ一つ達成していくことだろう。

平野歩夢とユニクロが思い描くのは、「世界一」になるために誰も成し遂げていないことへ挑戦し続けること

平野歩夢、ユニクロ本社での打ち合わせの様子

そして今回最後に平野とユニクロの両者がお互いをどんなパートナーと捉えて、今後どのような方向性で歩んでいくのか、その思いを特別に聞くことができた。

このインタビューの中で特に繰り返し表現されていたのが、世界一になることを含めてまだ誰も成し遂げていないことを達成するということだ。「歩夢選手が、世界一になることや誰も成し遂げてないことをやりたいという強い気持ちを持って日々の努力や挑戦を重ねているので、ユニクロとしてはウェアの開発・提供を中心に彼を全力でサポートしていきます。」とユニクロ担当者は語ってくれた。

この言葉から感じ取れたのは、現在スノーボードシーンでトップの存在であり、今後もこのシーンを牽引し続ける平野がさらなる高み、そしてその未開の境地を目指せるように、彼のパフォーマンスを全力でサポートするというユニクロの強い姿勢だった。

そしてこのユニクロの存在に対して、平野は「自分の意見をすごい大事にしてくれて、自分のこういう風にできたら良いなということを全面的にサポートしてもらっている感覚が強いです。日常生活や撮影、そして大会などの色々な場面で自分が納得する服装を提供してくれるので、日々自分のこだわりの中で生きていられる。それってなかなか自分だけでできることではないですし、今までできてこなかった部分なのでありがたいです。」と話し、お互いの信頼関係と世界一を目指す者同士が共通の想いを持って、同じ方向を向いて歩みを進めていることが感じられた。

同時に平野は「僕が開発に関わったユニクロのウェアや服をより多くの人に知ってもらったり、着てもらうことは嬉しいです。」と常々口にしていることから、今後は両者がさらなる高みを目指していく中で得た知見や経験を通して、「平野歩夢 x ユニクロ」だからこそ実現できるこだわりのファッションと機能性を兼ね備えたLifeWearの開発の可能性もあると言えるだろう。

我々編集部及びファンの一人としては、世界一を目指して新たな領域に挑戦し続ける平野歩夢とユニクロの今後の協働や活動に注目していきたい。

平野歩夢プロフィール

1998年11月29日生まれ。新潟県出身。2014年ソチ、2018年平昌オリンピックハーフパイプ男子で銀メダルを獲得。ソチオリンピックでの15歳74日でのメダル獲得は、スノーボードにおける最年少のオリンピックメダリストとしてギネス世界記録にも認定された。世界最高峰の大会「Winter X Games」では2016年、2018年に優勝、FISワールドカップでは通算6勝、2019年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の スポーツ部門に選出されるなど、名実ともに世界トップクラスのスノーボーダー。2020年東京オリンピックで新たに正式種目に加わったスケートボード・パーク種目で日本代表入りを果たす。2022年北京オリンピックでは半年間で夏冬2回のオリンピックを目指す偉業に挑戦して金メダルを獲得し同年紫綬褒章を受章した。

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